タイにおける母語・継承語としての日本語教育研究会

Japanese Mother Tongue and Heritage Language Education and Research Association of Thailand (JMHERAT)

第11回セミナーのご報告

みつめよう子どもの姿、考えよう子どもの現実

 〜ことばが育つってどういうこと?〜
 子どもが自信をもって生きていくためのことばの力とその発達

 2015年3月8日に終了したセミナーの報告をします。今回は「発達」をキーワードに、講師に石井恵理子氏(東京女子大学)をお招きし、参加者同士の話し合いも交えて複言語文化で育つ子ども達の成長と周囲のすべきことについて考えました。多くの異なる立場の方々にご参加いただいていたため、それぞれの立場や状況を共有する大切な機会になりました。参加者は、保護者を中心に、様々な教育機関の教師の方々などでした。保護者は、タイ日カップルを中心に国際結婚の方、両親ともに日本人でインター校やタイの学校に子どもを通わせる方、教師は、幼稚園、日本人学校の教師の方、インター校、タイの高校や大学の日本語授業を担当する方などでした。セミナーでは、子どもの学習言語・学校選択の際に考えるべき点などついて、グループ単位での参加者同士の意見交換も行いました。
前半は、話し合いの題材であった学習言語・学校選択を切り口に、多言語多文化で育つ子どもの発達を考える上で必要なことについて考えました。まず、子どもの言語発達の基礎知識についてJMHERATの深澤から説明し、次に「生きる力としてのことばの発達」に必要なことは何か、石井先生と深澤でセッションを行いました。
後半は、更に踏み込んでことばの発達と他者との関係性をテーマに、こどもの言語発達を促す方法について考えました。まずJMHERATの過去のセミナーでも扱った事例を紹介しながら、言語の習得に関係性がどのように関わるかを説明しました。それを踏まえて、石井先生に「ことばはどう、どこで育つか」というテーマでお話しいただきました。

■参加者の感想
親として・・・・
・周りと人とのかかわり、サポート体制の確認等、自分が見落としていた点を気づかせていただきました。(母親)
・我が家では4か月後に第1子が生まれる予定です。第一言語タイ語・日本語のどちらにすべきか?どのように家庭内で言葉を使い教えていくべきか?今回のセミナーで参考にすべきことが学べたと思います。将来、子どもが自分の力で生きていくために、親として十分にサポートしていけるよう、家庭内で話し合いやっていきたいと思います。(父親)
・学習させているつもりが《作業》させていることが多かったと思います。でも《学習》はさせることではない。(母親)

文字をたくさん書かせても書いているだけではそれは《作業》。《学習》ではない。(石井)

・インターに子どもを通わせていますが、日本語の自宅教育、今後日本に戻った時の英語保持、色々悩みは尽きません。自力で生きていける人間に育てたいので勉強になりました。特に子どもが「やりたい分野で伸びる」に大変共感しました。(母親)
・幼稚園から高校までインターに通う家では、日本語で会話、小学6年生までは自宅で漢字や、公文で日本語を習う(嫌々・・)。これでよかったのか、これから何ができるか、あらため考えるための参考になりました。(母親)
・言語⇒どういう質のものを、どのように使用しているかで言語習得能力が変わってくる。というのが、とても印象的でした。これからも興味のあることを提供できる環境を作っていきたいと思います。(母親)
・ことばをテーマにしてセミナーに初めて参加しました。今まで頭の中でもやもやしていた部分が、論理的に説明していただくことで、少し整理されたと思います。(父親)
・現在3か国語(タイ、英語、日本語)の環境におりますが、今後の言語発達におけるヒント、キーワードをたくさんいただきました。今後も都合がつく限り参加させてもらおうと思います。タイ人妻も興味のあるセミナーかと思いますので、今後、英語・タイ語での開催もあれば、夫婦で同じ理解の元、子育てができるのでさらにいいと感じました。(父親)
研究会でも気になっていたことです。まずはタイ語セミナーか勉強会を一回企画したいと思います。
・息子(7歳)を連れて在外生活をしております。日本人学校がない国に駐在していたため、現地校、インター校で学ばせています。しかし、安易な英語に引きずられており、読書(日本語)をしたがらず、漢字の勉強など、毎日息子のヤル気UPと時間の使い方の工夫で悩める日々です。私自身、大学で第二外国語習得の学習をし、教職を取るなど、教える側としては少し自信があったのですが、打ちひしがれています。(中略) “プレリテラシー”のご説明はすごく感銘を受けました。(母親)
リテラシーは狭い意味での読み書きの力に加えて、それを社会生活の中で活応する力のことです。プレリテラシーとは、読み書きができるようになる前に、子どもたちが示す、読み書きに似た行動を意味します。読めないのに本を読んでいるふりや文字を指して勝手に読んでいるなどの行動はこのプレリテラシーですが、このような行動は、読むことがすてきなこと、書けることがすばらしい事だと思えるからこそ出てくる行動です。文字を与えようと躍起になるのではなく「本を読むことや書くことが価値あることだと思える環境が大切」「そこから主体的なリテラシー能力が育つ」(石井)のです。



教師として…・
・普段、お目にかかることができない幼稚園の先生や、保護者の方々の現状などを窺うことができたので、(グループの話合い)「子どもの言語選択」は面白かったです。
石井先生のお話にあった「例えば、本を読むという行為がある環境か」ということが、学習言語能力の獲得のための準備として重要ということに改めて意識させられました。(日本語教師
・ことばは必要だから育つのだということがよく分かりました。私の学生で、日本人の父、タイ人の母を持ち、17歳まで日本で育ったのですが、18歳からタイに来てもうすぐ3年が経つ子がいます。彼は、私に「自分が何人なのかわからない。今はタイ人の中で生活しているから、日本から離れてしまい、自分の中の日本がなくなる気がして怖い」と相談してきました。そのとき、うまい返事ができませんでしたが、『アイデンティティは関係性によって変わる』ということばを聞いてはっとしました。知りたかったことに気づくことができたようなきがします。(日本語教師
・子どもの言語獲得について、色々な事例を元に考えるいい機会になりました。自分が接しているケースは、すでに大学生なのですが、彼らの背景を考えると、本当にさまざまでおもしろく感じる一方で、では日本語教師としてどう接していけばいいのかと悩む毎日です。(日本語教師
・学校にいるときは学校のことしかわからなかったが、(子どものことば発達の)概念を知ることができた。忙しくても、外に出て勉強して行くことで今の自分の立場をさらに客観視できるのではないかと気づくことができました。(学校教師)

参加者の感想の一部を掲載しました。参加者の皆さま、たくさんの感想ありがとうございました。感想にもあったタイ語の勉強会を是非企画したいと思いますが、その前に6月6日に第4回勉強会を行います。8月には複言語・複文化のワークショップを計画しています。(JMHERAT)