タイにおける母語・継承語としての日本語教育研究会

Japanese Mother Tongue and Heritage Language Education and Research Association of Thailand (JMHERAT)

2015年9月勉強会のご報告

日 時:2015年9月19日
場 所:学習空間ノア(NOAH)会議室
参加者:6人
テーマ:家庭内共通言語は必要か?

2015年9月19日に行われた第六回勉強会は、「家庭内の状況」に着目し「家庭内言語・共通語」について考えてみよう、というテーマのもとに行われました。

参加者が「家庭内言語は統一した方がいい!」「家庭内言語は何語がいいの?」等などの疑問やポリシーを持ち寄り勉強会はスタートしました。しかし、いくつかの事例を見ていく内に、家庭内言語の必要性や選択の議論の前に、「それらを通してどの様に子ども達と接していくか。」という方向に勉強会は進んでいきました。

以下、参加者の方々の感想です。

感想1

 「日本語」「タイ語」「英語」と何か一つに決めるのではなく、その家庭で日常的に使われている言語を、おそらく2〜3カ国語が混ざっている状態でしょうが、場面に応じて使うのが良いのではないでしょうか。一人ひとりが自信を持てる言語を使って語り、もし分からない人がいれば、家族で助け合う。それが多言語状態の家庭における家庭内共通語ではないかと思いました。
(女性・保護者/日本語教師

感想2

 「家庭内共通語は必要か」というテーマについて、皆さんのお話を伺って大変参考になりました。家庭内共通語をひとつに絞る必要はなくて、親子がその場で一番自分の気持ちを表現しやすい言語を使い分けるのが自然だろう、というのが私のとりあえずの結論です。また、親がどちらもタイ語ネイブティブでないケースで子供の学習言語をタイ語に決めた場合、どのような基準で現地校を選べばいいのか、宿題をどのように親がサポートすればいいのか、色々な人の事例を聞いてみたいと思いました。
(男性・国際結婚保護者/教育関係)

感想3

 父親として、また海外で子育てをする日本人として、将来を見越して計画を立て、選択していくことには、細心の注意を払うべきだと考えています。ですが、勉強会で様々な事例に触れ、まず自分の選択が状況を無視した自分の願望であった事、また複言語・複文化環境にあることのメリットを活かせていないという事に気付かされました。今回は勝手な持論を皆さんに聞いて頂きましたが、その過程で自分の「育て急ぎ」に気付くことができました。先々の心配は否定されるものではないと思いますが、結果「子供の今を見ていない。子供の今を話していない。」、深澤先生には「親のスキップ」と命名されましたが、自分自身納得してしまう表現でした。勉強会では「親のスキップ防止」の為に、「子供アルバム(仮名)」作成を通して今の子供を見つめていくというアドバイスを頂きました。子供との関係性を築いていく為のアルバム作り、実践してみたいと思います。
 「言語選択」を前提として勉強会に参加しましたが、今の子供を見つめ関係性を築いていくことで、家庭内言語は自然と選択されるのではないかと、今は考えています。
(男性・国際結婚保護者/日本語教師

感想4

 今回も気付かされることがたくさんあった勉強会でした。

 まず、当日行くまで家庭内言語は「統一した方がいい」と思っていました。しかし、Yさんのご家庭の話を聞いて考え方がまるっきり変わりました。それは、私の場合と同じ「日本人女性とタイ人男性」だったことも関係あるのだと思います。夫婦は簡単な日常会話以上に難しい話をしなければならない時があり、その時はどうしても同じレベルで会話ができる最低一つの言語が必要になる。子どもが大きくなると親に相談したいこともできるだろうから相談に乗れるくらいの言語能力も必要。そのため、家庭内の言語は皆が理解し合えるように統一した方がいいのだと思っていました。しかし、親と子どもが良好な関係を築いていれば、必ずしも言語を統一しなくても上手くいくこともあるのだということに気付くことができました。

 また、子どもが使う言語がタイ語や日本語や英語等いずれかに偏ってしまったとしても、認知力を養い、伸び伸びと言葉を使える環境を作ってあげることで、いつか子どもが自ら他言語に挑戦し、達成感を得、成功体験を重ねていき、自信をつけることで次第に言語を身につけていくという構造も知ることができました。親がすべきことは干渉ではなく、認知力を養うために言語への興味の種を撒いておくことだということを学びました。

 さらに、子どものことを思うあまりに、親が先々のことを急いでしまう傾向があることにも気付きました。自分では将来のことを見据えて計画を立てているだけのつもりでも、それが理想であり、目標となり、周りにも自分自身にもプレッシャーを与え、がんじがらめになってしまっているようです。自分がしっかりしなくては!と気張ってしまいますが、信頼できるパートナーに頼ることも実に大事なことなのだ、とハッとしました。頭では分かっているつもりでしたが、実際にはあまりできていないことに気付くことができました。この「親のスキップ防止」には写真を撮ること、子どものアルバムを作ることが効果的であることを学びましたので、今後に活かしていこうと思います。

 家庭内言語の統一は大切だと思っていた私が、最終的には、言語で意思疎通ができるに越したことはないが家族全員が神経質になってまで一つの言語に執着しなくてもいいのだという考えに変わりました。子どもの視点から親が抱える問題に気付くことができ、どのように考えて動くべきかを話し合い、人の意見を聞くことで、たくさんの気付きがある時間を過ごすことができました。ありがとうございました。
(女性・国際結婚/日本語教師

感想5

 今回の関係性マップの作製とメンバー間での質疑応答を通して、やはり「関係性」が大きく影響する/してゆくだろうということを感じました。そして、大切なのは「先々を心配しすぎて、今から制限してしまう」ことではなく、豊かな人間関係を気づくサポートをどうしてゆくかということだと思いました。
(女性・日本語教師