タイにおける母語・継承語としての日本語教育研究会

Japanese Mother Tongue and Heritage Language Education and Research Association of Thailand (JMHERAT)

2015年11月勉強会のご報告

日 時:2015年11月7日
場 所:学習空間ノア(NOAH)会議室
参加者:9人
テーマ:【家庭内共通語について】
     ・第六回勉強会の感想の共有
     ・「トランスランゲージング」の紹介
     ・育児アルバムの実践から
紹介資料:「考えることばを育むことばの教育−メタ認知を活かした授業デザイン−」内田伸子
     「トランスランゲージング書評」
     (「母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究」第11号)

2015年11月7日の第七回勉強会は、8月のワークショップ後から継続して考えている「家庭内共通語」について、第六回勉強会とは違った視点から意見交換をしました。
勉強会の冒頭で、深澤先生から「トランスランゲージング」についてご紹介頂き、復言語という概念について再考しながら勉強会はスタートしました。
大半が国際結婚ということもあり、各国事情入り混じった議論となりました。
豊かな体験とことばの繋がりとは? そもそも豊かな体験とはどのような体験なのか? 
体験とことばの関係をふまえて家庭内で出来る事とは?親の思う「成功」とか「失敗」ってなんなのか? 子供の選択権とは?


感想1

今回『トランスランゲージング』という考え方を聞き、親としてダブルの子どもに対する理解がしやすくなった気がします。
「言語能力は混然一体となっており、全体として一つのもの」というのはイメージではぼんやり持っていましたが、やはりモノリンガル、バイリンガルトリリンガルと言語数で分けて判断・評価しがちになっていました。
それぞれの言語能力を伸ばしてやることももちろんですが、その人間の内部にある外部から見えない思考や思想の資源を豊かにしていくことが必要だと感じました。
(男性・国際結婚保護者)

感想2

先日の勉強会の感想を送らせていただきます。
詰め込み型と遊び型の勉強法を比較したディスカッションにはとても納得するものがあり、全ての親、教育機関が詰め込み型について考え直すべきではないかと思いました。
また、自主性を育てることはとても大切な事だと考えさせられ、反省しました。
子育てを始める前にこのような事を知っていたら良かったと、勉強会に参加する度に思います。
これは余談ですが、作文コンクールの作品、とても良いですね。感動しました。
(女性・国際結婚保護者)

感想3

今回も、たいへん興味深いお話しがいろいろとお聞きできました。
インター校の教育方針や実際していること、ドイツの高等教育のことなど
いいなあと思ったり、また、「成功」や「失敗」って、どういうことだろうと自問している最中です。
(女性・日本語教師

感想4

今回の勉強会も私にとっては有意義な時間でした。
自分自身の子育ては終わってしまいましたが、今の仕事(教師及び生徒のサポート、保護者の相談役)をしていく上でのヒントになることがいくつかありました。
国際結婚の家庭での様々な問題も、共有することでシチュエーションを改善していける可能性が出てくることもわかりました。そんな場が持てることは素晴らしいと思います。
子供の成長にとって父親の役割が大きいことは分かっていても、どうしたら良いのか分かっていないお父さんが多いのだろうなとも思いました。多くのお父さんが勉強会に参加され、自分にあった子供との接し方を見つけられればいいなと。
(女性・国際結婚保護者/教師)

感想5

今回の勉強会に参加して、「遊びの体験」がとても大切だということに気付かされました。
遊びを通して、子供の自発性が生まれたり、効率の良い方法に気付かせたり、子供が自分の好きな事を見つけたり、親の理想だけを子供に押しつけて教育するのは良くないのだということに気付かされました。
また、「トランスランゲージング」についても、○語はこれだけしか出来ないからとマイナスに捉えるのではなく、「○語プラス○語全てが子供の資源であり、豊かな人間をつくる」という考えを知り、一つの言語に対して執着しなくてもいいのだという考え方に変わりました。
今回いろんな人のお話を聞くことができ、大変参考になりました。
ありがとうございました。
(女性・国際結婚保護者)

感想6

国際結婚のご家庭の娘さんが深澤先生と「ごっこ遊び」をしている、というお話を伺ったとき、最初は「もう中学生なのにごっこ遊び?!」とびっくりしたのですが、先生の「スキップはできない」という話で納得しました。
「○年生だから○○を教えなければいけない」ではなく、子どもたちひとりひとりの状況をよく観察して関わっていきたい、と思います。
(男性・国際結婚保護者/教師)

感想7

【豊かな体験・楽しさを教える】そういった事が家庭内で行えるということを再認識しました。
「父親として何ができるか」を考える日々ですが、「(体験や楽しかった記憶を)娘さんの心に残してほしい」という参加者の方のお言葉には本当に感謝しております。
「何かを残す」ではなく「関係性を築く」、そこに戻れた気が致します。
今回は各国事情や教育現場の事情が飛び交い、どれもこれももっと知りたいと感じた勉強会でした。
(男性・国際結婚保護者/日本語教師

勉強会は毎回自己紹介からはじまります。この自己紹介で、実は個人の事情、参加の理由が話されます。人数の少ない勉強会ならではですが、今回は子どもさん(16歳)に「私は何人?」「出身国ってないよね?」と言われたと話した方がありました。アジア数国を移動し、子どもさんは親の母国に住んだことはありません。学校言語も家での共通語も親の母国語とは異なる言語です。住む場所も使用言語も子どもが自分で選択できるわけではありません。さて大学はどうしよう、父親の母国なら授業料はただだけど言語の限界があるしと、この子どもさんの進学の話は、子どもの生きる場所と言語選択の話題になりました。
また何度かご夫婦で参加されたフイリピン出身のお母さんが今回お一人で出席しました。お一人ということで運営側はちょっと慌てました。資料は日本語しか用意ありません。勉強会自体が複言語的ではないと反省したものの、対応ができないまま当日になりました。でも、その方が涙ぐみながら「ここに参加できてすごく楽になった。」と自分が勉強会に参加する意味を語ってくれました。「子どもの勉強ができないのは自分が外国人だから」「子どもにいつもすまない」と思っていたそうです。勉強会の一つの大きな意義は親が自分の思いを口にし、そこからまた自分と子どもとの関係を捉え直すことだと改めて思いました。
またあるお父さんから、子どもの「今」を見ずに、成長の先に描いた成功から逆算して今何をしようと考えてしまうと話がありました。そこから、そもそも何をもって子どもの成功とか失敗というのかと話が展開しました。先ほどのお母さんも、夫と自分が描く子どもの将来像に大きなずれがあると話し、どうも父親たちは「成功感」に縛られているのではないかと話題になりました。でもきっと父親だけではないでしょう。
インター校の教師でもある保護者から、インター校では一つのテーマを巡って総合的に学習を進めているので、そもそも失敗という見方はないと話がありました。到達目標に子どもを当て嵌めるのではなく、子どもの興味・関心によって起こる自主選択の繰り返しの先に目標が育つということでしょう。日本の学校経験しかない参加者は皆驚きました。
ここで改めて参考資料の内田伸子さんの講演録を紹介しました。こどもの遊びの重要さが書いてあります。遊びは、自発的に起こり自由に探索し自分で考えて行動するものです。この中に学力の基盤があります。また、遊びを大切にするということは、子どもの主体性を大切にした関り方をするということです。その関わり方が重要なのだと内田さんはいいます。「遊び」なら親の国籍も、住む場所も、使用言語も関係なく思いっきり関われるはずですね。でも子どもと遊ぶには自分が遊びを本気で楽しまないと見透かされちゃいます。「本気で関われる」こと、それが今の「成功」なのではないでしょうか。
トランスランゲージングについては8月ワークショップの記事をお読みください。最後に舘岡先生のトランスランゲージングの話を掲載してあります。

次回勉強会は2月6日(土曜日)です。